主な疾患と当院の治療方針

主な疾患と当院の治療方針

急性中耳炎

年間の症例数は1,000例程です。中耳炎の99%は自然に治癒します。このため耳痛があれば1~2日ほどは鎮痛剤のみで経過を観察し症状が続くとき(2%程度)には血液検査を行い細菌感染が強く疑われるときにだけ抗生剤を投与します。
カゼのときに耳を診ると,半数以上で鼓膜が赤いとか鼓膜が腫れているためで,中耳炎と診断されます。しかし,痛みとか,耳漏などの症状がなければ,治療の必要はありません。

滲出性中耳炎

年間の症例数は1,000例程です。滲出性中耳炎のほとんどは数ヵ月で自然治癒していきます。聴力検査(OAEなど)で高度の難聴がみられなければ,とくに治療はしないで月に1回程度経過をみていきます。
5歳以上の子どもで,難聴が3~6ヵ月以上続けば内服薬による治療をおこなっています(有効率90%程度)。
これで治癒しない場合にのみ,鼓膜チューブの挿入も考慮しますが,当院での鼓膜チューブの挿入例は事実上ありません。

副鼻腔炎

過剰診断や過剰治療を避ける必要があります。子どもの「カゼ」の後に副鼻腔のCTやMRIの検査をおこなうと60%に副鼻腔炎がみられます。しかし,2週間程度で自然治癒するため,クラリス(クラリスロマイシン)などの抗生剤を投与する必要はありません。
子どもには治療が必要な副鼻腔炎は事実上ありません。鼻水が長く続くときや,あおばなが出るときは,家庭で鼻の吸引を行うだけで十分です。小学校高学年では大人と同様な副鼻腔炎が稀に見られます。このときの副鼻腔炎の診断はレントゲンではなく被爆の心配がないエコー検査でおこなっています。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは痒みを伴う湿疹が長期間出たりひいたりする病気です。小さいお子さんの場合は2ヶ月以上湿疹が続くとアトピー性皮膚炎と診断されます。また、本人や家族が他のアレルギーの病気を持つことが多いのも特徴です。赤ちゃんのうちに発症することが多いですが、多くは成長し肌が丈夫になると自然に治っていきます。
治療は保湿剤とステロイドの塗り薬です。湿疹を治すためにはステロイドの塗り薬を使用し、治った後の予防には保湿剤を使います。特に冬場で乾燥する時期や授乳中の赤ちゃんの頬などは保湿剤のみで肌がきれいな状態を保つのは難しく、ステロイドの塗り薬もたびたび必要になることもありますが、多くは成長に伴いよくなっていきます。
赤ちゃんのときに肌がひどくあれていると、そこに家庭で食べている食物がくっつき反応するようになってしまい、今度は食べたときに食物アレルギーとなると言われています。赤ちゃんの湿疹が強い場合は積極的に治療を行い、肌がきれいな状態を目指しましょう。

気管支喘息

当院が目指す喘息治療方針は,簡単で短期間ですむ治療です。
喘息の軽症化
吸入ステロイド薬や有効な内服薬の普及で小児喘息が軽症化し,入院や喘息死が激減しています。小児喘息は「死に至る可能性のある慢性の病気」から「治る病気」へと大きく変わってきました。
長期治療が必要?
喘息発作ゼロを目標に,長期の内服薬治療が今でも一般的です。しかし,多くの保護者は治療をいつまで続けるのか? 発作が無いのは本当に長期治療の効果なのか?など長期治療に疑問や不安を持っています。喘息発作をゼロにする方針は魅力的ですが実際には不可能です。また,この方針のための過剰治療による副反応が危惧されています。喘息の悪化のときに治療を始め,症状が治まれば治療を止める方針が自然な治療方針ではないでしょうか。
解ってきたこと
喘息は体質ですが大部分は自然に良くなっていきます。また,ほとんどの喘息発作の引き金がウイルス感染(カゼ)であることが解ってきました。吸入ステロイ薬は有効性が高く現在の喘息治療には欠かせません。しかし,長期投与で身長が1~2cm程度低くなることが解ってきました。
吸入ステロイド薬の間欠投与療法
吸入ステロイド薬の効果と安全性を両立させるため,カゼ症状がみられたときや喘息症状が出現したときに保護者や患児の判断で吸入ステロイド薬と気管支拡張剤の吸入を開始する間欠投与療法が海外で広がってきています。
当院での間欠投与療
2007年から吸入ステロイド薬の間欠投与療法を行ってきました。2010年に吸入ステロイド薬の間欠投与療法を行っていた1~15歳までの462例の2年間の経過を紹介します。吸入ステロイド薬を処方した人数は初年度と比較し翌年,翌々年は40%,26%と減少していました。中発作以上の発作回数は初年度の268件から52件,39件と減少し,入院も初年度の5件から翌年以降は0件となっていました。このように吸入ステロイド薬の間欠投与療法により吸入ステロイド薬の効果と安全性の両立が可能です。

食物アレルギー

食物アレルギーとは特定の食物を食べることで体に異常な反応が起こり、発疹、せき、おう吐、血圧低下などの有害な症状がでることです。最近の研究から生後4、5カ月の早い時期から卵を食べさせることでアレルギーが減ることが解ってきました。
家庭に散らばっている食物のかけらが赤ちゃんの荒れた肌について反応が起こり、今度は口から食べたときにアレルギー症状が出るようになります。赤ちゃんの湿疹を治療しておくことが重要ですし、家庭で食べている食物は何でも早いうちから食べさせることが大切です。
食物アレルギーの治療は、症状の出る食物を食べないことではありません。症状の出ない量を見極め食べ続けることです。食べても症状の出ない量を見極め食べ続けることで、徐々に安全に食べられる量が増えていき、早く食べられるようになります。心配な場合は病院で食べさせても良いでしょう(食物経口負荷試験)。
当院でも年間200例ほど日帰りで食物経口負荷試験を行っています。