院長コラム

医者に診てもらっているのに肺炎になってしまった!みなさんはどんなに思われますか?

こどもの感染症抗生剤の使用方針

 このようなことはよくありますが、ひどい藪医者に診てもらったと思われるでしょうね。
 しかし、みなさんは驚かれるかもしれませんが、これは当たり前のことなのです。 

肺炎の予防はできません!

肺炎は「咳と熱を伴ったかぜ」が続いているときにときどき起こる病気です。抗生剤を飲むことで肺炎を予防できるのではないかと昔から思われていました。
 しかし、海外で行われた多くの研究で、カゼのときに抗生剤を飲んでも、肺炎の発症を減らせないことが解っています。
 普通の肺炎は細菌の感染で起こるのですが、細菌に有効な抗生剤を飲んでも予防できないのは不思議ですね。じつは体の中には無数の細菌が住んでいて、いくら抗生剤を飲んでも体の中を無菌にすることはできないからなのです。
 細菌が原因ではないウイルス性の肺炎もありますが、こちらには抗生剤はもともと効果がありません。

肺炎の予防は危険かもしれない!

肺炎を予防するために抗生剤を飲むと、体の中に住んでいる抗生剤に効きやすい細菌だけが減ってしまい、抗生剤が効きにくい菌(耐性菌)が残ってしまいます。
 こんなときに肺炎になると、耐性菌で肺炎が起きることになります。耐性菌による肺炎では、治療が非常に難しくなります。

肺炎になってから治療する!

「えー」と思われるかもしれませんね。しかし、医師の仕事は決して肺炎の予防ではありません。これは不可能なことなのです。医師の仕事は、肺炎になった患者を正確に診断して適切な抗生剤を使った治療をおこなうことなのです。
 医者に診てもらったのに、「抗生剤をもらえない」と苦情を言ってはいけません。抗生剤による予防より、慎重に経過をみてもらうほうがはるかに安全なのです。

肺炎はワクチンで予防できる!

信じられないと思われるでしょうね。しかし、これは事実なのです。海外ではすでに76ヵ国で子どもの肺炎の主な原因菌である肺炎球菌ワクチンが導入されています。2000年からこのワクチンを導入している米国での報告では、小児の肺炎は以前の半数以下になっています。特に肺炎球菌による肺炎は80%も減少しています。
 現在開発中の新しいワクチンでは、肺炎の原因のほとんどを占める肺炎球菌とインフルエンザ菌の2つの細菌にも有効で、その効果が期待されています。このように海外では肺炎は抗生剤ではなく、ワクチンで予防する時代になっています。残念ですが日本での実用化はまだまだ先になりそうです。

※ 本コラムの掲載内容は当時の小児医療から記載しているものです。現状と異なる場合もございますので、ご了承ください。