院長コラム

嘔吐下痢のときの食事は?

こどもの感染症

 30年ほど前、私が小児科医になって最初に受け持ったのは「難治性下痢症」の赤ちゃんでした。生後4カ月なのに出生時の体重より500gも少ない3000gほどでした。難治性下痢症は嘔吐下痢症などに引き続き、下痢が止まらず体重がどんどん減ってしまう病気です。当時はよくみられましたが、入院も数カ月と長く、死亡することもよくありました。幸いにこの赤ちゃんは3カ月後には無事に退院できました。

難治性下痢症が消えた理由は?

この病気はそのあと、忽然と消え去ってしまいました。理由は何なのでしょうか?多くの小児科医は嘔吐下痢のときの初期の対応がよくなったためだと考えています。当時は「脱水症」という言葉は一般的ではありませんでしたが、この直後から「脱水症」が急速に普及していきました。いまでは、子どもが嘔吐や下痢をしたときには、ほとんどのご両親が「脱水症」を心配して、「イオン飲料」を飲ませて来院されます。

 脱水症を防ぐには?

「脱水症」は単に体の水分を失っただけでなく、ナトリウムなどの塩分も失った状態です。脱水を防ぐには、嘔吐があっても塩分を含む「経口補液」をちびちびと与える必要があります。この「経口補液」は数社から市販されています。ただ、「イオン飲料」や「スポーツ飲料」と呼ばれる飲料水は、運動で失う水分の補給のためのもので、塩分が少なく脱水の予防には使えません。

その後のミルクの与え方は?

従来は、難治性下痢症のときと同じ治療が勧められていました。

難治性下痢症では乳糖の消化ができなくなり、乳糖を含む普通のミルクや濃度が濃いミルクを与えるとすぐに激しい下痢に戻ります。このような経験から、乳糖を含むミルクはなるべく避けるように指導し、ひどければ乳糖を含まない下痢の治療用ミルクを使うことを勧めていました。また、ミルクを薄めることも勧めていました。

 しかし、最近は海外での研究をもとに、脱水症がひどくなければ、乳糖を含むミルクでもそのまま続けてよいし、ミルクを薄める必要はないという指導方法も普及してきています。

 どちらが正しいのでしょうか?

 じつは、多くの小児科医も迷っています。

 私は、「初期の脱水症を無事に乗りきれば、乳糖を含むミルクをそのまま与えてもよい。しかし、下痢が長引いたりひどいときは、従来の指導法に戻り乳糖を含まないミルクに変更したり、ミルクを薄めたりするほうが安全だ」と考えています。もちろん最初から、昔の方法を採用していけない理由もないと思っています。

 これは難治性下痢症の治療で苦労した小児科医(私)の意見です。

※ 本コラムの掲載内容は当時の小児医療から記載しているものです。現状と異なる場合もございますので、ご了承ください。