抗生剤(抗生物質)と腸内細菌と子供の病気
細菌は悪者?
無数にある細菌のほんの一部がヒトの病気の原因になるだけで、多くの細菌はヒトには無害なのです。最近はヒトの腸内に棲んでいる細菌が注目されています。これは、腸内の細菌を遺伝子解析で詳細に調べることが可能になったためです。
腸内細菌とは?
ヒトの腸内にはなんと5百種類の細菌が全部で百兆個ほど棲んでいるそうです。ヒトの全細胞数の60兆個を超える数で、その重さは大人で1,5㎏ほど、体重の2%にもなります。
腸内細菌の起源は?
胎内の赤ちゃんの腸内は無菌です。ところが、お母さんのおなかを出た直後から、さまざまな細菌が入れ替わり立ち替わり口から入り込み、腸内に棲みついていきます。この細菌の集まりは「腸内細菌叢(そう)」または腸内細菌のお花畑「腸内フローラ」と呼ばれます。
腸内細菌の働きは?
病原菌の感染を防ぐ効果があります。
先に棲み着いた無害な細菌が、病気の原因となる細菌の侵入を防ぐのです。さらに注目されているのはアレルギーを防ぐ効果です。
抗生剤は喘息を増やす!
病原菌を殺してしまう抗生剤は、病原菌だけでなく腸内細菌にも影響します。このため、抗生剤を飲むと腸内細菌のバランスが崩れて下痢が起きやすくなります。
子どもへの抗生剤投与は腸内細菌に対する影響が大きく、喘息やアレルギーになりやすくなるという研究報告が次々と出ています。世界で最も権威のある米国小児科学会誌の2009年号に「小児への抗生剤投与は喘息の発症を増やす」という論文が掲載されました。25万人もの子どもたちを出生直後から5年間追跡調査した大規模な研究です。この調査で子どもに抗生剤を投与すると喘息になりやすくなること、さらに抗生剤の投与日数が増えるほど喘息になりやすくなることが分かりました。
不要な抗生剤は避ける!
カゼには抗生剤は不要です。鼻水や咳にも抗生剤は不要です。ほとんどの副鼻腔炎や中耳炎にも抗生剤は不要です。抗生剤が直ちに必要な病気は多くはありません。比較的多い溶連菌感染症や細菌性肺炎、稀ですが重症の細菌感染症である菌血症や細菌性髄膜炎などです。
米国小児科学会は、小児科医だけでなく、子どもの医療に関わる全ての医師は、抗生剤を出すことに慎重であるべきだと勧告しています。
Hibワクチンと腸内細菌
Hib髄膜炎予防のためのHibワクチンは5歳以上では必要ありません。これは、ワクチンを接種しなくても、Hibと同じ抗原を持つ腸内細菌のために、Hibに対する免疫が自然にできるからです。腸内細菌にはこんな効果もあるのです。