院長コラム

抗生剤のお話しvol.2~抗生剤(抗生物質)の影~

こどもの感染症アレルギー心臓の病気川崎病の主な原因抗生剤

「子づれDE CHA・CHA・CHA!178号」で抗生剤が細菌の感染で亡くなりかけた多くの人の命を救い、20世紀最大の発明とされたことを書きました。今回は抗生剤の影の部分のお話です。この50年間に日本は新しい抗生剤を続々と開発し、世界でもトップクラスの抗生剤の生産・使用国になりました。特に3歳までの子どもでは世界で断トツの抗菌薬使用国です。また、使われている抗生剤も海外では小児に使用が認められてない強力な抗菌薬が普通に使われています。

抗生剤と耐性菌

 耐性菌とは、抗生剤が効かない菌のことです。抗生剤が使われるようになった直後から耐性菌が見つかり始めました。特に、肺炎の原因となる肺炎球菌に耐性菌が出現したことは驚きでした。これは抗生剤が登場して30年後のことです。

 抗生剤を使えば使うほど抗生剤が効かない耐性菌が増えてきました。そして、耐性菌による肺炎で亡くなる子どもが実際に出てきたのです。

抗生剤と病気

 抗生剤の使用が、さまざまな病気を引き起こすことも解ってきました。一番知られているのが肥満です。牛や豚の飼育で大量の抗生剤が使われています。これは感染症を防ぐためではなく、早く太らせるためなのです。そして喘息や食物アレルギーなどの病気も、抗生剤の使用量が多いほど増える、さらに糖尿病や難治性の腸の病気であるクローン病にも関係していることが解ってきました。

腸内細菌と抗生剤

 腸の中には細菌がたくさん住んでいます。その数は百兆個、重さにして体重の3%程度です。体重が50キロの女性では1.5㎏にもなります。腸内細菌はあまりにも多くて、何が住んでいるのか最近まで解っていませんでしたが、近年、遺伝子解析の進歩で明らかになってきました。例えば肥満の人の腸内細菌を痩せの人の腸内細菌と入れ替えると、痩せが肥満に、肥満が痩せになってしまいます。

 そして、この腸内細菌は抗生剤の影響を受けて、細菌の種類が大きく変わることも解ってきました。肥満や喘息、アレルギーなどの発症は、抗生剤を早くから飲ませるほど、また飲んだ回数が多いほどなりやすくなります。特に3歳までの抗生剤の内服には注意が必要です。

川崎病と抗生剤

 川崎病は小さな子どもの病気で、発熱、発疹が続き突然死を起こすこともあります。不思議なことに日本にだけ多く、年々増えていて、昨年は2万人が発症してほぼ全例入院しています。当院の調査で、抗生剤の使用と川崎病の発症に関連性があることがわかってきました。抗生剤の使用は最低限にとどめたいものです。

※ 本コラムの掲載内容は当時の小児医療から記載しているものです。現状と異なる場合もございますので、ご了承ください。