院長コラム

抗生剤のお話しvol.3-last~抗生剤の使用はどこまで減らせる?~

こどもの感染症

当院の診療を振り返って

 抗生剤の多用が問題になってきたことを書いてきました。それでは、ふかざわ小児科ではどうなんだと聞かれそうですね。2017年、当院で発行した処方箋は22,000枚でした。この中で抗生剤を含む処方箋は300枚でした。全処方箋の1.4%、一日当たり1枚ほどでかなり少ない方だと思います。しかし、恥ずかしいことですが2000年の抗生剤を含む処方箋は20%でした。そこで、抗生剤の使用を減らしてきた経緯をお話しします。

5人の仲間と始めた調査研究

日本は海外の約3~4倍の抗生剤が子どもたちに使用されていました。また、海外では抗生剤の使用の裏付けとなる研究がたくさんありますが、日本ではそのような研究はまったくありませんでした。そこで、2000年の小児科学会で知り合った埼玉、石川、大阪そして福岡の私と5人の小児科医で一緒に研究を始めることにしました。

カゼに抗生剤は必要?

 日本ではカゼに抗生剤が普通に使われていました。そこでカゼに抗生剤を使った場合と、使わなかった場合で、発熱、咳、鼻水への効果を比較しましたが、違いはありませんでした。

扁桃炎(扁桃腺炎)に抗生剤は?

 扁桃炎に抗生剤が必要かの調査も行いました。溶連菌による扁桃炎だけに抗生剤は有効でしたが、それ以外のすべての扁桃炎で抗生剤による効果はありませんでした。

副鼻腔炎(蓄膿症)に抗生剤は?

 海外では小児の副鼻腔炎へのレントゲン診断は放射線被爆のため禁止されています。被爆のないエコー検査で副鼻腔炎を診断して抗生剤の効果をみましたが、効果はありませんでした。

急性中耳炎に抗生剤は?

 熱があっても、耳だれがあっても、抗生剤の効果はほとんどなく、自然に治っていきます。当院で2017年診療した中耳炎750例(耳漏例120例を含む)の中で、抗生剤を使用したのは14例(2%)でした。抗生剤が必要なのは、熱や痛みが続くときにまれにみられる乳様突起炎の合併が疑われるときだけです。これは血液検査でしか判断できません。

高熱のときには?

 抗生剤が絶対に必要な病気もあります。比較的多いのは菌血症です。ヒブと肺炎球菌ワクチン(13種類に対応)の普及で減ってきました。しかし、肺炎球菌は93種類もあるため肺炎球菌ワクチンに含まれない型による菌血症がまれにあります。菌血症は重症の細菌性髄膜炎の初期の段階です。カゼと思われていても、3歳以下で39℃以上の発熱の時には、血液検査で抗生剤の必要性を判断します。外来での抗生剤が必要なことはまれです。抗生剤は命にかかわる病気を治療するための薬です。気軽に使うことはやめたいですね。

※ 本コラムの掲載内容は当時の小児医療から記載しているものです。現状と異なる場合もございますので、ご了承ください。