院長コラム

過剰な心配が 過剰な抗生剤治療につながります

こどもの感染症

日本の子どもに強力な抗生剤(抗生物質)のオゼックスやオラペネムが大量に使われています。子どもの「カゼ」にたいする過剰な不安が強力な抗生剤の使用につながっています。子どものカゼは自然に治っていきます。

●オゼックスとオラペネム

 世界中で日本だけ子どもに使われている最強の抗生剤です。耐性菌の増加や発達への影響が懸念され、通常の抗生剤で効果がないときに限り非常用として認められています。

 本来、外来で使うべき薬ではありません。

●例えば鼻水や咳では?

 カゼのとき鼻水や咳が1~2週間ほど続きます。鼻水や咳は肺に細菌が侵入することを防いでいます。このように大切な役割を持つ鼻水や咳は涙や唾と同じで薬で抑えることはできません。鼻水や咳で困ったときに効果的なのは鼻水を吸引器で取ってあげることだけです。鼻水や咳が続くことを心配して病院を変えると、医師はお母さんの期待に応えようとしてより強い薬を出すことになります。鼻水を副鼻腔炎(蓄膿症)と「診断」して抗生剤が出されるかもしれません。しかし、カゼによる鼻水や咳に抗生剤は効かないため、さらに強力な抗生剤が使われます。当然ですが強力な抗生剤も効きません。ただ、このころになると鼻水や咳も自然に治る時期になります。お母さんは強い薬が効いたと信じてしまうかもしれません。子どもで抗生剤による治療が必要な「副鼻腔炎」は事実上ありません。

●例えば中耳炎では?

 中耳炎は鼻水や咳と同じカゼの症状の一つです。カゼで鼻水が出るのと同じで、鼻の奥にある中耳(鼻の一部)の壁から耳水が出るのが中耳炎です。痛みがあれば痛み止めを使い、耳漏があれば耳の掃除をします。最初から抗生剤を使用してもカゼの鼻水と同じで効果はありません。鼓膜の充血や腫れが続くとより強力な抗生剤に変更されがちですがやはり効果はありません。子どもの中耳炎が完全に治るまでには2~3か月かかるのが普通なのです。もちろん抗生剤が必要となる重症の中耳炎も稀にあります。高熱を伴っていて「菌血症」を合併しているときや耳痛と熱が続き「乳様突起炎」を合併しているときです。どちらも耳を見るだけでは診断がつかないので血液検査が必要です。血液検査をしないで抗生剤を投与していると診断が遅れて適切な治療も遅れることになります。

●過剰な治療を避けるために 

 咳や鼻水などのカゼ症状を心配しないでください。熱も39℃以上あるとき、ぐったりしているとき以外はあわてる必要はありません。過剰な心配は過剰な治療につながります。

※ 本コラムの掲載内容は当時の小児医療から記載しているものです。現状と異なる場合もございますので、ご了承ください。